皆さんは“宇宙天気”という言葉を聞いたことがありますか? 実は宇宙にも天気があり、それは私たちの生活に大きな影響を与えているようです。もちろん天気といっても雨や雪、台風などではありません。では、一体どんなものなのでしょうか? 今回は、宇宙天気の研究を行っている国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)電磁波研究所 宇宙環境研究室の主任研究員、坂口歌織さんにお話を伺いました。

宇宙天気とは? 宇宙にも天気があるの?

――宇宙天気とはどんなものか、教えてください。

宇宙天気とは、宇宙環境の変化のことをいいます。基本的に宇宙環境を乱す原因は太陽に関係しています。例えば、“太陽フレア”という太陽の爆発現象。火山のような噴火が起こるこの爆発は、宇宙環境にガスや、人体に有害な高いエネルギーを持つ粒子、大量の放射線などをまき散らします。これらは、人工衛星や送電システムへの障害など、私たちの生活へ大きな影響を与える可能性があるんです。

このような宇宙環境の変化によるさまざまなトラブルを防ぐため、太陽の黒点や磁場はどうなっているか、それらの影響から地球を守るバリアはどのような状態にあるか、などを実況・予測して人々に知らせるのが「宇宙天気予報」なんです。

宇宙天気の予報会議を実際に見学させていただくことに!
宇宙天気の予報会議を実際に見学させていただくことに!

――では、宇宙天気予報はどのように行われているのでしょうか?

宇宙天気に関するさまざまな分野の研究者たちが、それぞれの観点から太陽などの状態について、人工衛星の観測データの解析や数値シミュレーションなどを実施し、意見を出し合いながら議論を重ねることで、予報の結論を導き出しています。今からちょうど今日の予報の会議が始まるので、ぜひ予報の様子を見学して行ってください。

実際の宇宙天気予報の現場を見学!

資料やデータをもとに予報会議が進められていく
資料やデータをもとに予報会議が進められていく

研究者の皆さんのご厚意で、この日は実際に、NICTで行われている宇宙天気の予報会議を見学させていただきました。

予報は365日、毎日行われています。会議の時間になると合図の鐘が鳴らされ、さまざまなデータが集まる部屋に研究者の方々が集まってきました。

1名の予報担当が前方に立ち、予報会議スタート。現在、3名の予報担当者たちが日替わりで世界中からいろいろなデータをかき集め、会議までに内容をまとめているのだそうです。その資料やデータをもとに、予報担当は、太陽フレア・地球のバリアの状態といった、人々の生活に影響を与える宇宙環境について、項目ごとに研究者たちに向けて予報・解説を行います。その後、研究者たちに詳しい予測や、この予報で正しいかどうかなどの意見を求めていきます。

それぞれの研究分野ごとに研究者が意見を出し合う
それぞれの研究分野ごとに研究者が意見を出し合う

同じデータを見ても、それぞれの研究分野ごとに研究者の意見が異なることもあるのだそう。違う意見が出た場合は、結論が出るまでじっくりと議論を重ねていきます。異なる視点からデータを観察し、それぞれが考え抜くことで結論を導けるのは、各分野のスペシャリストたちが集まる研究機関ならではですね。

予報担当が今回発表する予報の結論をまとめ、予報が決定
予報担当が今回発表する予報の結論をまとめ、予報が決定

最後に、予報担当が今回発表する予報の結論をまとめ、研究者たちに最終の確認を取ります。「今日の太陽をいろいろな視点から観測した結果、明日爆発が起きたり、地球に何かが届いたりすることはなさそうでした」と、予報会議の後に坂口さんが言っていたように、本日はスムーズに会議が進み、予報が決定。地球への直接的な影響など、もっと議論の余地がある観測データが出たときは、意見交換が活発になるので会議の時間が長くなるそうです。研究者たちの鋭い視点や妥協を許さない姿勢が、予報の精度を高めているんですね。

宇宙天気予報は何の役に立つの?

予報会議で資料やデータにじっくり目を通す坂口さん
予報会議で資料やデータにじっくり目を通す坂口さん

――坂口さんは何の分野から宇宙天気を研究しているんですか?

私は、世界各地のオーロラに関連するデータや、バンアレン放射線帯という地球の周りにある放射線が充満している領域の予報の精度を上げる研究をしています。オーロラは、太陽から地球へたくさんのプラズマが降り込んで、地上の磁場が大きく変動をしたときに現れる現象です。地上の磁場が変動すると、発電所の送電システムに影響を与え、停電を起こしてしまうこともあるんです。つまり、オーロラは、宇宙天気が悪天候のときに美しく見えるものなんですよ。

宇宙天気について、今後、「普通の天気予報と同じような使い方ができるようになるかもしれません」と話す坂口さん
宇宙天気について、今後、「普通の天気予報と同じような使い方ができるようになるかもしれません」と話す坂口さん

――きれいなオーロラも、宇宙天気の観点から考えるとあまり良くない影響の表れなんですね。他にも、宇宙天気予報はどんなところで役立っているのでしょうか?

宇宙天気の乱れは、停電の他にも、位置情報(GPS)のズレを大きくしたり、飛行機や船の通信機能に障害を与えたりすることもあるため、航路の変更など、それらのトラブルを防ぐ対策として宇宙天気の予報は使われています。さらに、太陽エネルギー粒子の影響で宇宙飛行士が被ばくしてしまうこともあるため、それを防ぐためにも活用されています。


――宇宙空間で被ばくをすることがあるんですね。

そうなんです。今後、宇宙旅行が身近になってきたときに、「放射能が増えているけど明日の宇宙旅行はどうしようかな」とか、「太陽から爆発物が飛んでくるから明日の宇宙旅行はやめようか」とか、普通の天気予報と同じような使い方ができるようになるかもしれません。そのためにも、今後も研究を重ねて、予報の精度をさらに高めていきたいですね。

実は、私たちの生活にもさまざまな影響を与えていた宇宙天気。何十年後かに宇宙旅行がスタンダードになれば、より身近なものになりそうですね。宇宙天気についてもっと知りたいと思った人は、宇宙天気予報センターWebページをのぞいて、宇宙への興味を広げてみてくださいね
http://swc.nict.go.jp/

【取材協力】
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)電磁波研究所
宇宙環境研究室 主任研究員・坂口歌織さん
http://www.nict.go.jp/



(出典 news.nicovideo.jp)


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